袴田事件の「再審開始決定」と刑事司法改革②

袴田事件の「再審開始決定」と刑事司法改革②

2014年07月25日発行

公益社会法人アムネスティ・インターナショナル日本 事務局長  若林秀樹

静岡地検は、反省なく即時抗告

静岡地方検察庁は、3月27日、拘置の執行停止に対して異議申し立て(即時抗告)を行なったが、同日、東京高等裁判所は、棄却した。その後、検察庁は最高裁に特別抗告の申し立てをしなかったことから、袴田さんは、改めて死刑判決が確定しない限り、再び拘置所に戻されることはなくなった。

しかし3月31日残念ながら静岡地検は、袴田事件の再審決定について、即時抗告を申し立てた。極めて残念である。静岡地裁が下した「再審開始決定」は、慎重かつ十分な審理を尽くした結果の重い判断である。地裁は、捜査機関の証拠の捏造があるとして、「現状において、再審の審判で無実になる相当程度の蓋然性が認められる」とまで指摘したのである。既に袴田氏は、78歳の高齢であり、再審開始を長引かせることは、精神的な拷問に等しい。検察は直ぐにでも、即時抗告を取り下げるべきである。今回の地裁の決定は、これまでの不自然で疑わしい証拠を、ごく普通に市民の目線で判断した結果として、非常に評価できるものである。「疑わしきは被告人の利益に」、「推定無罪」とは、刑事裁判の原則であるが、これまでに、何故に死刑判決を下し、その判決を支持してきたのか、捜査当局と裁判所に猛省を促したい。死刑事件における冤罪は、国家による殺人行為だ。もし証拠をねつ造したことが明らかになれば、時効ではあるが、捜査当局に刑事罰を求めてもおかしくない犯罪行為だ。もし警察、検察、裁判所が自ら犯した問題を検証できないのであれば、西嶋弁護 団長が指摘するように、第3者機関の設置が必要である。

4月14日、日弁連で開催された「袴田報告集会」に、巌さんとお姉さんの秀子さんと現れた。巌さんは外見はすこぶる元気そうだったが、話をされると理解不能な内容だった。半世紀近く拘束されていたことによる拘禁反応と、認知症が進んでいるからだろうか。回復にはもう少し時間がかかりそうである。早く故郷の浜松に帰られ、そして一刻も早く再審「無罪」を勝ち取り、残りの人生を楽しんでもらいたいものだ。

袴田事件からみた刑事司法等の課題

今回の再審開始決定を受け、マスコミは、冤罪の温床となっている自白偏重の捜査手法や、再審制度のあり方などについての言及はしているが、驚くことに死刑制度の廃止についての論調は、ほぼ皆無である。今回の袴田事件を踏まえ、冤罪を生む刑事司法制度の問題点やメディアのあり方について5点指摘したい。

1・代用監獄制度の廃止と、取調べの全過程の録音・記録

密室での自白強要の温床となっている、代用監獄制度を速やかに廃止すべきである。袴田さんは、20日間にわたって平均12時間、長かった日は16時間20分と、深夜午前2時まで取り調べが続いたことがあった。暴力、脅し、食事制限、取り調べ室への便器の持ち込みなど、警察はありとあらゆる手を使って自白を強要した。地裁も、さすがに供述調書44通は排除したが、自白した後の調書1通だけを調書として採用した。つまり、この調書がなければ有罪にできなかったからである。現在、法相の諮問機関である法制審議会では、取調べの可視化について議論されているが、警察・検察の根強い抵抗にあい、全面可視化に向けて大きな壁が立ちはだかっている。

2・証拠の全面開示

今回の再審請求審でも、新たに検察が開示した600点以上の証拠により、これまで認定された「事実」に反することが次々明らかになり、再審開始決定につながった。その1つはズボンの寸法札の「B」の記号が、実は色を表す記号であって、大きさの「B」ではなかったのである。裁判所の認定が間違っていたことを示すものだが、そもそも検察は、そのことを知っていたのである、こんな重要な証拠を隠しつつ、無実の人を「死刑だ!」と主張するのは殺人行為である。その他にも、味噌タンクの事件当時の味噌の量は、衣類を隠すこともできない80キロしかなかった報告書が存在するなど、驚愕の新事実が明らかになった。証拠開示の基準が緩和されたといっても、開示する決定権は検察にあることには変わりがない。税金を使って当局が集めた証拠は「公共の財産」であり、真実を追求するために、検察の手持ちの証拠の全面開示は当然だ。

3・再審制度の見直し

日本での再審は、ハードルが高く、なかなか認められることはない。再審が請求できるのは、明らかに新たな証拠を発見した時や、証拠が捏造されたものであることが証明された時である。袴田事件の第1次再審請求は、死刑判決が確定した翌年、1981年4...

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