巨悪を求めるジャーナリズムはもう有効ではない。因果関係から相互作用へ。佐々木俊尚の未来地図レポート vol.438

巨悪を求めるジャーナリズムはもう有効ではない。因果関係から相互作用へ。佐々木俊尚の未来地図レポート vol.438

2017年03月06日発行

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佐々木俊尚の未来地図レポート     2017.3.6 Vol.438
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http://www.pressa.jp/


【今週のコンテンツ】

特集
巨悪を求めるジャーナリズムはもう有効ではない。因果関係から相互作用へ。

〜書籍『なぜ僕たちは金融街の人びとを嫌うのか?』に学ぶ取材の未来

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AIの時代に自己啓発本は「サバイバル本」ばかりになってきている

〜『10年後、君に仕事はあるのか? 未来を生きるための「雇われる力」』

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■特集

巨悪を求めるジャーナリズムはもう有効ではない。因果関係から相互作用へ。

〜書籍『なぜ僕たちは金融街の人びとを嫌うのか?』に学ぶ取材の未来
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 「なぜ僕たちは金融街の人びとを嫌うのか?」という書籍が来週日本で刊行され、著者でオランダ出身ジャーナリストのヨリス・ライエンダイクさんとトークイベントをしてきました。



◆『なぜ僕たちは金融街の人びとを嫌うのか?』
Amazon
http://amzn.to/2mS5iNN


 これは「なぜ金融の世界はあのようにダークなんだろう?」という問題意識をもとに、ヨリスさんがロンドンのシティと呼ばれる金融街に入り、200人以上の人たちにインタビューして描いたノンフィクションです。意外にも、出会った人たちは世間が非難するような強欲者ではない「ふつうの人びと」だった、というところが非常に興味深い指摘になっています。オランダではなんと30万部のベストセラーとか。


◆Banking Blog
http://www.theguardian.com/commentisfree/joris-luyendijk-banking-blog


 書籍の下敷きになっているのは、英紙ガーディアンのサイトでヨリスさんが書いていた「バンキングブログ」という連載記事。ここではインタビューの記事に対してさまざまな人たち、特に金融機関のインサイダーの人たちもコメントを寄せ、さらにそこから取材を申し込んで……というライブアップデート的な構図で取材が重ねられています。



 さて本書を読むと、まず第一に金融業界の異様な実態をあらためて思い知らされます。その異様さは2008年のリーマンショックで顕在化して世界に知られるようになったわけですが、そもそもが1980年代ぐらいから投資銀行が自社の資金ではなく他人の資金を使って運用するようになり、これが「リスクをとらない人たちがリスクの勝負をする」という構造を生みだしてしまい、さらにはクライアントのカネを投資する資産運用部門と、上場を目指すスタートアップに投資する投資部門が合体したことであからさまな利益相反がひとつの金融機関の中で同居してしまい、再現のないマネーゲームに走るようになったことなどが、当事者の声をもとに生々しく描かれています。



 本書の中にはあまり触れられていないのですが、最近はここにAI(人工知能)の導入も言われるようになってきていますね。これは昨年秋の本メルマガでも詳細に解説した話ですが、これまでファンドマネージャーの経験やカンに頼っていた投資が、膨大なビッグデータを猛烈なスピードで解析するAIに任されるようになれば、人間よりもずっと精巧で確度の高い判断を下せるようになります。特に最近のAIは、深層学習(ディープラーニング)という新しい手法を使うことによって、特徴量までをもAIが立てることができるようになっています。



 もしAIのテクノロジーが独占的にどこかのヘッジファンドに所有されれば、ひと握りの人たちの利益だけが増えるということになります。櫻井豊さんはこう指摘しています。「巨額の資金でトップの研究者をひきつけられるスーパー・ヘッジファンドが、ディープマインドのような超強力な新しい手法を開発し、その手法の存在さえも明かさずに独占すれば、残りの人類は利益を吸い上げられるばかりという想像したくない状態に陥るかもしれません」(『人工知能が金融を支配する日』)



 おまけにこの金融の世界では、たったひとりの社員でも巨額の損失を出せてしまうという構造を持っています。そういう事件は過去に何度となく報道されていますね。ヨリスさんは書いています。
「マクドナルドやシェル石油なら数人の社員が数十億ドルの損失を出すことはほとんどあり...

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