Vol.183 誤った医療情報が流布されがちな背景を考えつつ、東芝の先行きやCIA暴露事件にも触れてみる回

Vol.183 誤った医療情報が流布されがちな背景を考えつつ、東芝の先行きやCIA暴露事件にも触れてみる回

2017年03月10日発行

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┃人間迷路┃Vol.183
--誤った医療情報が流布されがちな背景を考えつつ、東芝の先行きやCIA暴露事
件にも触れてみる回
                           やまもといちろう
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                         2017年3月10日発行
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【0.序文】「実は言われているほど新事実はなく、変わっているのは評価だけ
だ」問題
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 先日、医療情報関連で幾つか話題になっていたネタを裏付け取って記事にした
のですが、いわゆるネットで流れる医療情報のデマ問題については、送り手側の
医療知識不足とその間違った情報を流すことで何が起きるのかという想像力不足
が合わさったところなのかなと思っていました。

 ところが、先日の堀江貴文さんらが呼びかけ人になって、実質的に彼自身が広
告塔になっている予防医療普及協会について言うならば、それ相応の医師が実名
顔出しで「胃がんの原因の99%はピロリ菌」という途方もないネタを出してしま
って収拾がつかなくなる、というジレンマを呼んだりもしております。

 もちろん、胃がんの原因の81%ほどはピロリ菌が問題だというのはWHOが認め
ているところではあり、胃がん患者数を減らすためにもピロリ菌除菌が予防に効
果的だというのは事実であります。しかしながら、その事実を淡々と述べるだけ
でも充分ピロリ菌除菌の必要性は啓蒙できるはずなのに、どういうことか
「99%」にこだわり、結果としてガセネタではないけど大げさな煽りだと指摘さ
れることになってしまうわけです。

 医師の監修があるにもかかわらず、また疫学統計や公衆衛生に知見のある人た
ちがいたのになぜこのような「盛りすぎ」のネタになってしまうのかというのは
興味深いところなのですが、関係した内部の人たちに話を聞いてみると、やはり
きちんと議論はしていて問題提起もされていたことが分かります。その書き方は
おかしい、だけれども、問題を切実に思ってもらうには一番強いインパクトを与
えられるメッセージを打ち立てるべき、みたいな流れになっておったようなので
す。

 それって、例えば研究論文である治験のステージIIIのがん5年生存率が19%と
みられるところを1%以下だと見積もることが、その研究にどれだけのダメージ
を与えるかってことですよね、と反応すると先方も反論しなくなります。ただ、
正しいことを伝えるにあたって、それが正しい啓蒙の内容であるならば数字が違
っていても良いのか、という哲学的な話に立ち入ることになるため、なかなか判
断がむつかしいのでしょう。

 そのうえで、やはり特定の学会が行っている認定医のところに集客がされる仕
組みであるとか、堀江貴文さんの関連本が売れるアプローチとか、それって単な
る医療情報を過剰に煽って営業をしているだけなんじゃないか、それに監修した
り発起人に名前を連ねている人はダシにされているのではないかという問いは、
やはりあるわけですよ。

 そうなると、一般的には正しいとされる「胃がんの原因のかなりの割合がピロ
リ菌だから、予防のために検査をし、陽性なら除菌をしましょう」という啓蒙の
内容を、どう正しく評価するべきなのか、というところに立ち至ります。単純な
話、いまのピロリ菌キャリアの人たちは圧倒的に50代以上の人たちであり、実際
に胃がんの発生率も50代から跳ね上がります。つまりは、5年ないし10年のピロ
リ菌キャリア歴から特定のたんぱく質が生成されていく中で、胃の表面が委縮す
るなどしてがん化していくよ、という話ならば、概ね40代になるまでに少なくと
も陽性かそうでないかをチェックすることはとても大事なことですよね、という
評価が妥当ではないかと思います。

 ピロリ菌キャリアが若い人たちほど少ないということは、陽性検査のために
4,000円を払うことがどれだけ本人にとってQOLを上げられるのかという効用を公
衆衛生の観点からきちんと指摘していかなければならないのが、監修者たる医師
の立場だろうと考えます。

 しかしながら、実際には過剰な数字を煽り立て、検査や除菌の自費治療を薦め
るように見えてしまいます。程度の差こそあれ、WELQ問題で「インチキ医療情報
を流すな」とか、近藤誠医師の言説を見て「がんもどきなどと適当なことを言う
な」などという話とほぼほぼ同じ立て付けになってしまうわけです。啓蒙のた
め、であれば、基本的な情報を曲げていいのかという哲学的な問題なんですよ
ね。

 そりゃあ、医療情報を読みに行く人は、自分の健康に不安があるから読む場合
がほとんどで、だからこそNHK「ためしてガッテン」は過去にも6人ぐらいの実演
による小サンプルの臨床結果で番組作りしてきても事実と評価のベクトルがおお
むね許容範囲だったので許されてきたものが、最近になって「高尿酸血症には低
脂肪乳が効く」とか「コラーゲンを食べて美容」とか「糖尿病の治療にはこの睡
眠薬」などというやらかしが出るとあっという間に炎上してしまうわけです。

 そして、医療情報に関する問題を丁寧にみていくと、実のところ私たちが興味
を持ったり目を惹くような医療情報というのは、実は過去から定説として医師が
良く知っているものであったり、学説として定着しているものばかりで、新しい
知見や新事実的なものはそれほどないのだ、ということが分かります。血管の問
題で起こる疾患には納豆やゴマが良い、なぜならその機序はこれこれ、という話
は大切だけれどもありふれているのです。

 それでも、健康情報が繰り返し乱舞する理由は、そういう問題に対する評価は
常に変遷していて、もちろん納豆が身体に良いことは分かっているんだけど、受
け手の側が手軽に健康になれる情報を漁っているという市場においてはリクルー
トスーツの営業よろしく毎年巡回してネタが上がってくることになるわけです。

 お手軽に健康になれるなどという食材もサプリも薬剤も存在しません。もしも
健康を維持したいと考えるならば、日々の暮らしの中で節度を守りながら健康に
留意していくしかリスクを減らす確実な方法は無いとも言えます。むしろ、健康
な生活をしているはずなのにリスクはリスクですし、生まれ持った体質もあるの
で、ある日突然アレルギーになったり、健康診断では何もなかったはずの問題を
起こしていきなり倒れたりというのもまた人生ということになります。

 だからこそ、医療情報は必要なときに正しい内容を選べるようにしなければ本
当の意味で死に至ったり健康を大きく損ねたりするし、それは社会全体で見れば
取り組むべき大きな課題だと言っても過言じゃないのです。予防医療や栄養な
ど、いくらでも繰り返し情報を受け手に伝え続けることが大事なのであって、カ
ジュアルにピロリ菌検査しましょうよ、陽性なら自費だけどうちの認定医にどう
ぞ、と言いたいのであれば、クラウドファンディングで一発ネタで終わらせるこ
となく、啓蒙し続けることが求められているはずなんですよね。

 なのに、ピロリ菌で味を占めたのかは分かりませんが、今度は「毎年うんちで
9割予防」ですよ。これ、本当に医師が監修しているんでしょうか。公衆衛生を
ある程度理解している人からすれば「ギリギリ嘘とは言えなくもない」というレ
ベルの話なのであって、そういう際どい所を攻めるのが啓蒙のあるべき方法なの
かと言われると気になるところではあります。堀江さんが編集者とつるんで医療
本を売りたいだけなんじゃないかと邪推されてしまうような方法は少なくともお
薦めしないのですが、まあ推移を見守りたいと思っております、はい。

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目次
【0. 序文】「実は言われているほど新事実はなく、変わっているのは評価だけ
だ」問題
【1. インシデント1】東芝の危機とサムスン(韓国)の激震、混乱に陥るブルー
チップ系ファンド界隈
【2. インシデント2】ITセキュリティと安全保障の折り合いがつかなくなる時代

【3. 迷子問答】迷路で迷っている者同士のQ&A
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