21世紀の住宅は「一国一城」ではなく「拠点」のようなものである  佐々木俊尚の未来地図レポート vol.451

21世紀の住宅は「一国一城」ではなく「拠点」のようなものである 佐々木俊尚の未来地図レポート vol.451

2017年06月05日発行

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佐々木俊尚の未来地図レポート     2017.6.5 Vol.451
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【今週のコンテンツ】

特集
21世紀の住宅は「一国一城」ではなく「拠点」のようなものである
〜すまいのありかたについての変化をいま一度考える

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■特集

21世紀の住宅は「一国一城」ではなく「拠点」のようなものである
〜すまいのありかたについての変化をいま一度考える
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 昭和の時代の名映画監督、小津安二郎は鎌倉に住んでいました。当時は鎌倉というのは、文人や会社経営者など裕福な人たちが暮らす土地というイメージが強かったんですよね。そのころの映画を観ると、「鎌倉の叔父さん」というセリフを耳にすることがあります。仕立てのいいスーツに蝶ネクタイの上品な身なりをしている、会社の社長とか重役のイメージ。運転手付きの自家用車で鎌倉から都心の会社へと出勤しているのです。



 鎌倉はいまも人気の高い素晴らしい街ですが、東京都心からは50キロぐらいもあってけっこう遠いのです。まあ湘南新宿ラインに乗ればあっという間ですが、自動車で行くのは容易ではありません。昭和の時代に、いくら運転手付きで、まだ交通渋滞もさほどではなかったころだったにしろ、鎌倉から都心まで毎日通うのは面倒だったのではないでしょうか。



 そういう面倒さを差し引いても、閑静で静かな高級住宅地に家を構えるということの意味が大きかったということなのでしょう。昨年の著書『そして、暮らしは共同体になる。』でも書きましたが、そのころは東京のような大都会は「灰色のコンクリートジャングル」であり、人間の住む場所としては適切ではないと思われていたということもあるのだと思います。


 「一国一城の主」という言葉もありました。もともとは領土と城を有している大名のことですが、日本人の持ち家に託す夢の意味で語られるようになりました。「おれもついに、一国一城の主か…」と新居を前にして夫が独白するというような感じです。



 家を購入し資産として保有することが一人前の大人のあかしであり、人生の目標のひとつであると考えられていました。念願の家を建てて、その感慨にふけるというのが、人生のひとつの到達点だったのです。



 一国一城というからには、家はできるだけ立派であってほしい。できればマンションのような集合住宅ではなく、庭付きの戸建てがいい。そういう思いが、人びとの住まいを郊外へと押し広げました。そういえば私が警視庁を担当していたころ、不思議に感じたことのひとつが、警察官はやたらと戸建て志向がたかいということ。マンションに住んでる人はあまりおらず、茨城や埼玉西部などかなり遠隔地の住宅地であっても、無理して戸建てを購入している刑事さんが多かったのです。



 理由はいまもわかりませんが、警察官というマインドと日本の昭和のマインドはかなり親和性が高かったのかもしれません。



 しかし21世紀に入るころから、住まいに対する考え方は大きく変化してきました。背景にはバブル後の地価の停滞などもありますが、それだけではないでしょう。いまでも「賃貸か購入か」「マンションか戸建てか」という議論はあるのですが、それよりももっと重要なのは「住まいを何に使うのか」という命題が変わってきているのということがあるのです。



 住まいの使い道って、住むために決まってるでしょう、という疑問も出てきそうです、住まいということの「ありかた」そのものが大きく変わりつつあるのです。以前よりも東京の住環境が向上し、居心地の良いレストランやカフェ、ショップも増えて、街全体の居心地がとても良くなりました。家そのものだけでなく、家が建っている街を総体として楽しむことができるようになってきたのです。



 昭和の時代によく使われたことわざに、「男は敷居をまたげば七人の敵あり」なんていうのもありました。家を一歩出れば、そこは敵ばかりであるという意味です。家の中だけが安楽に過ごせる空間であり、家の外はいっときも気を許せない。ウチとソトを厳密に区切るという感覚があったのです。



 しかし21世紀の東京は、敷居をまたいで外に出れば、そこには緑が多くて気持ちの良い街路があり、お気に入りの店があります。「男女とも敷居をまたげ...

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