行動経済学の「ナッジ」とビッグデータ、AIが結びついたとき  佐々木俊尚の未来地図レポート vol.454

行動経済学の「ナッジ」とビッグデータ、AIが結びついたとき 佐々木俊尚の未来地図レポート vol.454

2017年06月26日発行

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佐々木俊尚の未来地図レポート     2017.6.26 Vol.454
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【今週のコンテンツ】

特集
行動経済学の「ナッジ」とビッグデータ、AIが結びついたとき

われわれの行動はAIの時代にどう誘導されるのか?(前編)

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■特集

行動経済学の「ナッジ」とビッグデータ、AIが結びついたとき

われわれの行動はAIの時代にどう誘導されるのか?(前編)
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 行動経済学の文脈で、「ナッジ(nudge)」という単語があります。もともとの意味は、「注意や合図のために、人の横腹を肘でやさしく押したり、軽くつついたりすること」。つまりそっと注意を喚起するようなことをナッジと呼ぶのです。



 ナッジというそのものずばりのタイトルの本もあります。行動経済学の第一人者として知られるリチャード・セイラーと、「インターネットは民主主義の敵か」で有名な法学者キャス・サンスティーンの共著。2008年の本で、日本では以下の訳が出ています。



◆『実践 行動経済学』
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 行動経済学の分野では、ナッジは人間に正しい行動をとらせるための方法、というような意味で使われています。人間はつねに合理的な判断を下すわけではありません。古典的な経済学では、そういう合理的な判断によって市場経済が成り立つというようなモデルが描かれてきましたが、行動経済学ではそう考えないのです。



 人間はときに、まったく不合理な判断をしたり、直感的に考えてしまい、それが結果として誤ったことに導かれることも多いのです。こういう傾向を先読みしたうえで、正しい行動に導いていこうというのがナッジなのですね。



 卑近な例で言うと、たとえば放置自転車がたくさんあるような場所に「放置自転車をやめましょう」と看板を立てても、あまり効果はありません。でも自転車を置いている人は、盗まれるのは嫌でしょう。だったら、「ここは自転車が捨てている場所ですから、ご自由にお持ち帰りください」としたらどうでしょう。持って変えられるのはみんな嫌だから、放置する可能性は低くなります。



 先ほどの『実践 行動経済学』では、ナッジは「リバタリアン・パターナリズム」だとされています。リバタリアンとパターナリズム‥普通はまったく逆の相反する概念だと思われていますよね。リバタリアンは、ウィキペディアによれば「他者の身体や正当に所有された物質的財産を侵害しない限り、各人が望む全ての行動は基本的に自由であると主張する」人たち。つまりは完全な自由主義者です。政府の介入とか、いっさい認めない。



 パターナリズムというのは・・時々勘違いしている人がいますが、「ワンパターン」のパターンとは関係ありませんよ。Paternalというのは「父権」という意味で、これもウィキペディアから引用すると「強い立場にある者が、弱い立場にある者の利益のためだとして、本人の意志に反してでも行動に介入・干渉すること」。つまり父親的に強権を奮って人を従わせることです。



 完全な自由と、父権主義。なぜこれがナッジでは両立するのかというと、人々の選択の自由は完全に確保されているけれども、知らず知らずのうちにその選択が良い方向へと向かわされていて、結果的に良い方向へと誘導されているということが起きるからです。



 2008年に『実践 行動経済学』が出版されてから欧米ではナッジが流行語のようになり、公共の政策を実行する手段としても採り入れられたりしました。たとえばアメリカでは、オバマ大統領が政策策定の際に行動経済学の成果を取り入れて検討すべきという大統領令を発しています。2014年には、国家科学技術会議(NSTC)の中に「社会及び行動科学チーム(SBST)」という専門家組織も設置されています。



 またイギリスのキャメロン首相は2010年、その名も「ナッジ・ユニット」という組織を発足させています。これはたとえば、税金収納の際に「市民の多くが期限内に税金を納めています」という簡単なメッセージを伝えるようなことを行い、これによって実際に期限...

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