スマホのタッチスクリーンからマイクとカメラに変わり、ネットは暗黙化する  佐々木俊尚の未来地図レポート vol.455

スマホのタッチスクリーンからマイクとカメラに変わり、ネットは暗黙化する 佐々木俊尚の未来地図レポート vol.455

2017年07月03日発行

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佐々木俊尚の未来地図レポート     2017.7.3 Vol.455
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【今週のコンテンツ】

特集
スマホのタッチスクリーンからマイクとカメラに変わり、ネットは暗黙化する
〜われわれの行動はAIの時代にどう誘導されるのか?(後編)

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■特集

スマホのタッチスクリーンからマイクとカメラに変わり、ネットは暗黙化する
〜われわれの行動はAIの時代にどう誘導されるのか?(後編)
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 先週に引き続き、「ナッジ」のお話です。行動経済学の分野では、ナッジは「人間に正しい行動をとらせるための方法」という意味で使われています。その人が自然にそういう行動をとるように、UX的(ユーザーエクスペリエンス)な手法で誘導しようというものです。



◆『実践 行動経済学』

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 先週も紹介しましたが、上記の2008年のベストセラー(原題『ナッジ』)で広く普及し、アメリカやイギリスでは行動経済学を取り入れた政策がおこなわれるきっかけにもなりました。



 しかしこのような行動経済学的な誘導は、「環境管理型権力」と呼ばれるような支配につながる可能性があります。法律やルールで明示的に命じる規範型権力ではなく、暗黙的に人を従わせる力。自分ではみずから望む行動を取っていると思ってるけれど、気がつけばその「望む行動」そのものが実は操作されている。そういうやり方です。


 自分では自由な選択をしているつもりでも、特定の選択肢に知らずしらずのうちに誘導されているとしたら、それは「自由」と言えるのかどうか。上記の本では、ナッジはパターナリズムとリベラリズムを合体した「パターナル・リベラリズム」であると論を展開していますが、そもそもナッジにおける自由とはリベラリズムの自由と同じものなのか、という議論は出てくるでしょう。



 ナッジは誘導しているけれども、選択そのものを奪うわけではないという反論もあります。誘導はあくまでも暗黙的なレベルであり、選択は明示的なレベル。明示的なレベルで選択できるのなら、それは選択の自由の侵害にはならない、というロジックです。しかし選択そのものがあらかじめ暗黙のレベルで決定されているとすれば、その選択の自由とは本当に自由なのか?という堂々めぐりの議論にやはりはまってしまいます。



 さて、以下の記事では、ナッジの問題点を3点にわけて挙げています。



◆Why Nudging Your Customers Can Backfire

http://bit.ly/2sXChH5


 まず第一に、ナッジは「上から目線」であるということ。



 ナッジは消費者の行動をある一面から分析したものにすぎません。消費者のモチベーションと能力は必ず劣っているのだという見方をしているからです。マーケッターの考え方はこう。「あなたはあまりに意思が弱く、セルフコントロールできていない。だからあなたは手助けが必要で、私があなたをナッジしてあげないと、あなたは正しい行動ができない」



 たとえば、こういう事例が紹介されています。スーパーマーケットの玄関の床に「健康のために矢印の方向へ向かおう」という文字とともに大きな矢印が描かれたマットを置いておくと、その矢印の先にある農産物売り場の売りげは9パーセントも増えたそうです。このナッジが暗に意味しているのは、「あなたは放っておくと、農産物売り場じゃなくジャンクフード売り場に行っちゃうでしょう?」という視線です。



 行動経済学の分野では、こういう「上から目線」だけでなく、正しい行動を消費者がどう自分の意志で選び取るのかということも分析されてきました。このような「モチベーション(動機づけ)心理学」はナッジと異なり、正しい行動を取るための消費者の意思の力や知識をどう強化するのかということに依拠しています。たとえばゴールを設定し、実行計画を策定することによって、人は貯蓄やダイエットなどの行動を正しく取ることができるのだ、というようなことがモチベーション心理学では明らかにされています。ナッジの考え方とはだいぶ違いますね。



 第二に、ナッジは仮にうまく運用できたとしても、それが最終的なゴールにつながるわけではないという問題。

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