記憶でも希望でも無限の世界でもなく、本質は相互作用である  佐々木俊尚の未来地図レポート vol.464

記憶でも希望でも無限の世界でもなく、本質は相互作用である 佐々木俊尚の未来地図レポート vol.464

2017年09月04日発行

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佐々木俊尚の未来地図レポート     2017.9.4 Vol.464
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【今週のコンテンツ】

特集
記憶でも希望でも無限の世界でもなく、本質は相互作用である
〜〜テクノロジ時代にも生存していく人間の本質とは(最終回)

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■特集

記憶でも希望でも無限の世界でもなく、本質は相互作用である
〜〜テクノロジ時代にも生存していく人間の本質とは(最終回)

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 アニメ「攻殻機動隊/ゴースト・イン・ザ・シェル」の1995年版、2004年の続編『イノセンス』、そして今年公開されたハリウッド版のリメイク実写版の3作品を比較することで、テクノロジと人間の関係性を考察するシリーズの最終回です。



 これまで、1995年と2004年の押井守作品について解き明かしてきました。では、今年公開されたハリウッド版の『ゴースト・イン・ザ・シェル』は、人間の本質をどう捉えているのでしょうか。

 この作品は士郎正宗さんの原作にかなり忠実ですが、評論家などからはあまり評価は高くないようです。たとえばニューズウィークの以下の記事。



◆ハリウッド版『ゴースト・イン・ザ・シェル』に描かれなかったサイボーグの未来
http://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2017/04/post-7353.php



 書いているのは、トニー・プレスコットさんという英シェフィールド大学の認知神経科学教授です。引用しましょう。



 ”映画の中盤で、ミラ自身が本当は何者かを示す記憶の重要部分が示される。また、ある男がマインドジャックされ、実際に送ったことのない人生や存在するはずのない家族などねつ造された記憶の上に作られたアイデンティティーに気づき、崩壊していく姿も描かれる。1995年のアニメ映画版は、人はただ記憶によって個人たりえると主張した。実写版はアニメ映画版の筋書きにほぼ従う一方で、異なった解釈をする。個人を定義するのは記憶ではない、とミラは言う。「私たちはまるで記憶が自分を定義するかのように振る舞うが、私たちは私たちが何を成すかで定義される」と訴えている。”


 これについてプレスコット教授は「原作に忠実ではないし、理解に苦しむ」と批判しています。さらにこう続きます。



 人間はイコール情報である、つまり「記憶されているもの」こそが人間の本質であるというのが原作での世界観ですが、ハリウッド版は確かにそこから逸脱しています。しかしそれは、「逸脱」なのでしょうか?


 ハリウッド版では主人公のキリアン(草薙素子)が、こんな会話をしています。



「私以外の人はみんな何かとつながっているのに、私だけは違う。過去がないみたい」

「もちろんあるわ。時間が経てば感じるはず」

「手を動かして。人を決めるのは記憶だと思う? 違うわ。何をするかでその人が決まる」



 記憶ではなく、「何をするか」こそが人間の本質だと彼女は訴えています。切々と、自分に言い聞かせるように。記憶がはっきりしない自分のアイデンティティクライシスを乗り越えようとしているのです。



 本メルマガの今回のシリーズ前編でも紹介しましたが、原作や1995年版映画にあった「清掃局員の尋問シーン」はハリウッド版でも出て来ます。



「ハックで彼の記憶を消し、別の現実を植え付けたんだ」

「娘がいると信じてる。だが何が違う? 空想と現実。夢と記憶。同じだよ。ただのノイズだ」


 1995年版では、「すべて現実でありそして幻」というセリフ。それが2017年は、「ただのノイズだ」と切り捨てています。ハリウッド版では、記憶というものへの固執から解き放たれていっているのがわかりますね。



 ハリウッド版の主人公、キリアン(草薙素子)は、自分が覚えていると思っていた記憶が実は研究室で植え付けられたものだったと知ります。その事実を知ったキリアンに対し、彼女を「つくった」オウレイ博士(ジュリエット・ビノシュ)は言います。



「その結果、美しいあなたが生まれたのよ」
「ぜんぶウソだったのね」



 最後に近いシーンで、キリアンは言います。



「人は記憶に自分の証しを求めるけど、何をするかが人を決める」

「私の中で生き残ったゴースト...

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