21世紀の日本社会は「儒教社会」になろうとしている?佐々木俊尚の未来地図レポート vol.468

21世紀の日本社会は「儒教社会」になろうとしている?佐々木俊尚の未来地図レポート vol.468

2017年10月02日発行

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佐々木俊尚の未来地図レポート     2017.10.2 Vol.486
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【今週のコンテンツ】

特集
21世紀の日本社会は「儒教社会」になろうとしている?

〜〜政治学者原武史さんと「民主主義の行方」について対談した(後編)

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■特集

21世紀の日本社会は「儒教社会」になろうとしている?

〜〜政治学者原武史さんと「民主主義の行方」について対談した(後編)
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 月刊誌『潮』の8月号で、政治学者の原武史さんと「政治の混迷と民主主義のゆくえ」というタイトルで対談しました。戦後民主主義の再構築について考える、この対談の話の後編です。



 原さんは政治学者として天皇家のことを研究した論文や書籍が多く、今回の対談も天皇陛下とはどのような存在なのかということについて話を展開しています。前回書きましたが、なぜか2010年代になって左派の人たちまでもが天皇陛下の言葉を安倍政権批判に利用するような事態が現れてきています。



 天皇という「日本で唯一の清らかな存在」を、左右それぞれが奪い合うみたいな不思議な構図になっているのです。これについて原さんは、今の日本は民主主義じゃなく、儒教的精神が復活しているのではないかと指摘されています。



 儒教には「君主は民に愛情を注ぐべし」という考え方があり、民が君主に対して直訴することが認められているといいます。例えば朝鮮は王朝時代に儒教が非常に浸透し、18世紀ぐらいには直訴が頻繁に行われるようになりました。直訴が異様な行為としてでなく、システムとして認められていたのです。



 しかし日本では、直訴はシステム化しませんでした。江戸時代から一貫して幕府は直訴を認めず、タブーとされてきたのですね。タブーだったからこそ、明治になって足尾銅山鉱毒事件で田中正造が明治天皇に直訴したことが、たいへん有名になり歴史に名を残したということなのです。


 そして2013年には、「山本太郎議員の天皇直訴事件」が起きました。これは秋の園遊会に出席した山本太郎参院議員が、天皇陛下に直接、手紙を手渡したというものです。山本氏はその後、「原発事故での子どもたちの被曝や事故収束作業員の劣悪な労働環境の現状を知ってほしかった」と記者団に説明しています。



 この行為についてジャーナリストの田中龍作氏は当時、自身のブログでこう書いています。「山本太郎事務所によると山本議員が天皇陛下に手渡した手紙の内容は『子供と労働者を被ばくから救って下さるよう、お手をお貸し下さい』。まさしく平成の田中正造である」



 原さんは、直訴がタブーであるからこそ、手紙を渡しただけで週刊文春に「手紙テロ」と書かれるような騒ぎになったのだと指摘しています。



 それにしても2010年代にもなって、なぜ山本議員は天皇陛下に直訴しようと考えたのか。そこにこそ、儒教的精神の再浮上があるのだということが言えるのかもしれません。しかしながら、この直訴という行為そのものが天皇の政治利用に当たるのではないかという指摘もあります。たとえばこんなツイートもありました。


 「護憲派を名乗るなら、たとえ憲法擁護に役立つものであろうと、天皇の政治的発言を肯定的に評価して政治利用すべきではない。天皇の発言が政治的権威を持ってしまえば、時の権力は必ず天皇の政治利用を目論む。それが日本の歴史。歴史を学び、そして権力を舐めてはいけない」

 確かに護憲を叫んできた山本議員が、憲法違反に問われかねないほど天皇に何かを期待するというのは、非常に不思議な思考だと思えます。これは原さんがおっしゃったように、日本社会に儒教的精神がいまだに続いていることの反映として理解すると、納得できる気もしますね。



 原さんは「儒教的なるものは、明治以来の日本にずっと内在してきましたが、むしろ平成になってからのほうが顕在化してきていると思います」ともおっしゃっていました。



 これはなるほどのお話で、20世紀的な社会的枠組みが少しずつ崩壊してきたがゆえに、その底に隠れていたものが可視化されてきたということがあったのかもしれません。経済成長の持続が困難になってきたことや、非正規雇用が増えて企業への帰属感が...

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