古代の人類社会で、人々の「精神」はどのように成り立っていたのだろうか?佐々木俊尚の未来地図レポート vol.471

古代の人類社会で、人々の「精神」はどのように成り立っていたのだろうか?佐々木俊尚の未来地図レポート vol.471

2017年10月23日発行

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佐々木俊尚の未来地図レポート     2017.10.23 Vol.471
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【今週のコンテンツ】

特集
古代の人類社会で、人々の「精神」はどのように成り立っていたのだろうか?

〜〜1970年代に社会に衝撃を与えた書籍「神々の沈黙」に再注目しよう(後編)

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■特集


古代の人類社会で、人々の「精神」はどのように成り立っていたのだろうか?

〜〜1970年代に社会に衝撃を与えた書籍「神々の沈黙」に再注目しよう(後編)
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 1970年代に発表され、出版界を騒然とさせながらも、しかし多くの人は呆然となるばかりで論評することもできなかった一冊の本があります。プリンストン大学教授だった心理学者、ジュリアン・ジェインズが書いた『神々の沈黙 意識の誕生と文明の興亡』。長らく日本語では読めなかったのですが、2005年になって喜ばしいことに紀伊国屋書店から邦訳が刊行されています。壮大な仮説なのか、それとも天下の奇書なのか。いまだにその評価は定まっていません。なぜなら、この本で書かれていることは検証しようがないから。



 松岡正剛さんは、有名な書評シリーズ「千夜千冊」でこの本を取り上げて、こう書いています。


◆松岡正剛の千夜千冊「神々の沈黙」

http://1000ya.isis.ne.jp/1290.html

 

”この仮説が“真相”を言い当てているかどうかは、どうにも判断のしようがない。あとでわかるだろうが、とうてい証拠をあげることができない仮説的素材でつくられた箱根細工のような玉手箱になっているからだ。”


 ”玉手箱だから、あやしげなところもいろいろある。多くの魅惑的な指摘や示唆に富んでいる一方、構成や文章にはかなり粗雑なところがあるし、概念規定にもいくつもの曖昧なところがのこる。もしもロジック・ビルディングの出来ばえで本書を評価するのなら、とうてい合格点に達していないとも言いたくなる。”


 さて、「神々の沈黙」はどのような内容だったのでしょうか。端的に説明すると、こういうことです。


 「人類がことばを獲得した当初は、私たちは意識を持っていなかった。そのころの人類は、頭のなかに常に神の声が響いており、この声とつねに会話することで思考を成り立たせていた。しかし紀元前2000年ごろになると神の声はだんだんと聞こえなくなり、その代替として宗教と意識を生み出した。神の声は人間の頭脳から消滅したが、現代では統合失調症にその痕跡をとどめている」



 びっくりするような内容ですね。念のために言っておくと、ジェインズは神が実在したと主張しているのではなく、人間の精神の動きとして頭脳の中に二つの声があったのではないかと言っているのです。彼はこれを、精神が二つに二分心(バイキャメラル・マインド)と呼んでいます。バイキャメラルというのは、政治制度の「二院制」という意味でも使われている単語です。 衆議院と参議院のように、脳も二つに分かれてそれぞれに考え、判断し、そしてその思考結果を脳内での会話によってすり合わせていたというのです。



 要するに神は、当時の人間の脳が生み出した二分心の片割れであったということです。神は人間の脳の創造物であり、人間の脳の中にはたしかに実在するモノだった。ジェインズはこう書いています。


 ”神々は、言語の進化過程で生まれたただの副産物であると同時に、ホモ・サピエンス自身が誕生して以来の、生命進化のもっとも顕著な特徴だった。神々は誰かの想像から生まれた虚構などでは断じてなく、それは人間の意志作用だった。神々は人の神経系、恐らくは右大脳半球を占め、そこに記憶された訓戒的・教訓的な経験をはっきりとした言葉に変え、本人に何をなすべきか「告げた」のだ。”

 なぜ二分心などというものが人間の頭脳に登場してきたのか。ジェインズは次のように説明しています。



 そもそもヒト属が現れたのは、200万年前のアフリカ。このころはヒトは30人ぐらいの数の群れで生きていたとされています。このぐらいの集団であれば、言葉がなくても身振り手振りや叫びで意思疎通はできたでしょうし、さまざまな技術を伝達するのも手取り足取りで可能でした。そのうちに言語が発生します(言語がいつ生まれたのかは未だ諸説あり、...

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