Vol.205 昨今の選挙がはらむ問題点を抉りつつ東京選挙区の総括など。自動運転や中国経済の今後についても触れてみる回

Vol.205 昨今の選挙がはらむ問題点を抉りつつ東京選挙区の総括など。自動運転や中国経済の今後についても触れてみる回

2017年10月27日発行

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┃人間迷路┃Vol.205
--昨今の選挙がはらむ問題点を抉りつつ東京選挙区の総括など。自動運転や中国
経済の今後についても触れてみる回
                           やまもといちろう
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                         2017年10月27日発行
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【0.序文】「歳を取ると政治家が馬鹿に見える」はおそらく事実
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 ひまネタというか、情勢調査の合間にいろんな検証を定点的にやっているわけ
なのですが、日本株や債券に造詣の深い外資系ファンドからの依頼で毎年いろん
な質問をコーホート(同じ母集団に質問し続ける)とフレッシュサンプリングで
分けて調査設計しております。

 その中の一つに「政治家に対する信頼度」という項目がありまして、詳細は省
きますが要するに「貴方は日本の政治家を信頼できますか。10段階でいうと何点
ぐらいですか」みたいな内容を聞いておるわけです。これが2002年から16年目に
差し掛かって、まあ見事にどんどん低下していっています。どの年代も、例外な
し、です。例えば、2002年に満35歳になった群は、2002年には評点平均6.13、中
央値5.32であったものが、満50歳を迎えると2016年には平均5.13、中央値4.22へ
とおのおの1ポイントずつ下落。同じく2002年に満25歳だった人は中央値が6.62
から5.84と下落しています。

 一方、フレッシュデータでみていくと20歳代が概ね中央値6.88であることを見
ると、若い頃は「政治は良く分からないなりにまあちゃんとやっている」という
感覚になるかもしれないのですが、幾つか特徴的に政治への信頼が低い年代とい
うのがあり、それは就職氷河期と団塊の世代であります。他の世代に比べて概ね
1.2ポイントほど低くなっているのは、不景気のときに社会に放り出されて辛い
暮らしをしているとか、全共闘世代のように半権力闘争が一種のシンボルになっ
ている世代は政治への対抗が大前提となっていて、ここからすべての社会認識の
フレームが出来上がっているように感じられます。

 これらのテーマがどこに影響しているのかというと、実際にはビッグファイブ
と言われる神経経済学モデルと投票行動についての分析を加えた新しい選挙ジャ
ンルがあるわけなんですが、これがまた見事にこの日本の状況を言い当てている
のが興味深いところなのです。この神経経済学モデルで培ったものはいまでは
oceanモデルとして、それこそBREXITやトランプ大統領の大勝利に直結する画期
的な選挙戦術となって「化けた」わけですけれども、逆に言えば科学的に投票行
動を見たときに、それまではどちらかというと統計学的モデルで検証することが
王道であり、オールドガードであったと言えます。以前このメルマガでも書きま
したが、古典的な選挙情勢の分析についてはサンプリングを各選挙区に対して行
い、この結果を見て「統計的に」その候補がどのくらいの得票を持って当選する
のかという先読みをすることで情勢調査として提示していたわけです。あくまで
投票結果の先読みですから、主にこれらを担うのはメディアであり、選挙速報を
さらに見ながら各政党が風読みをしたり、有権者が投票先を吟味するのに使って
ね、というものであり続けました。

 しかしながら、実際に有権者の行動そのものに効く情報提供や行動を促す選挙
戦術にまで昇華するとなれば、どうでしょうね。はっきり言えば、ネイト・シル
バーさんがアメリカの投票行動の予測でトランプ大統領の躍進を「分かっていた
のに外した」のはなぜなのかという検証も進んでいますが、もはやここまで来る
とデータはオープンにされなくなり、公的な議論の対象ではなく、個人情報保持
と企業秘密に類する世界へと移っていくことになります。それまではメディアや
シンクタンクが投票の傾向をしきりに有権者に聞き、そこで出た速報をもとに報
道のあり方を考えるというベクトルであるべきが、現在では民主党も共和党もお
そらくはいまいるリソースである選挙資金や有権者の動きを政策ごとに見極め
て、どうすれば自党の支持者が多く投票所に足を運ぶようになるかや、相手の候
補者に投票しようという有権者を投票箱まで辿り着かせないようにするかという
方向へシフトしていっています。

 その波は確実に日本にやってきていて、私は先々月からずっと掲載を逡巡して
いた文春オンラインへの『日本のリベラルの再興は、科学的手法によるべき』と
いうエッセイをどうするか悩んでいるぐらい、いまの日本政治は分岐点にきてい
るのではないかとすら思うのです。というより、日本の場合は「保守VSリベラ
ル」という図式に縛られすぎていて、実際には「親米VS反米」という尺度のほう
がより正確に日本政治のあり方を考えることができるはずなのに、現段階ではそ
ういう分析は非主流派にならざるを得ません。

 メディア的にはさんざん憲法改正が大事な議論だと国民を焚き付けても、国民
はその投票行動において憲法改正に賛成か反対かなんて誰も興味を持っていない
わけですよ。そういう政治産業やメディアの欺瞞が、結果として国民の政治的関
心度を低迷させているだけでなく、政治に対する基本的な考え方や価値を毀損し
ているとすら思います。有権者に政治家が如何に努力しているのかが見えづらけ
れば、有権者も政治家が働いていないから日本は良くならないのではないかと思
い込んでしまう原因になるのも分からなくもありません。

 他にもきわどい事例として「反自民へ投票性向の高い人たちは、基本的に社会
的に恵まれていない人たちである」という調査結果はかねてからあります。一時
期、ネット上での話題として「自民党はB層なる恵まれない層へのアプローチを
強化している」という話題はありましたが、これは取りも直さず当時の自民党が
自党への支持者層をしっかりと認識していて、野党の支持基盤を崩そうとしてそ
のような政策課題を掲げることになったことは言うまでもありません。いわゆる
「B層」を馬鹿にしているのではなくて、そもそも彼らは生活に満足していれば
投票にいかないのです。つまり、不況になると貧民が反自民票を投じに投票所へ
行き、景気が良いと飯が食えている人たちは面倒だから投票所にいかないわけで
す。世の中そんなもんです。分かりきっていることでも、いざ数字にしてみると
メディアはなかなか取り上げたく無さそうにしますし、調査項目自体が不適切だ
とやらないようになってしまうのです。

 「失業者と高齢者によって反自民票が作られています」と喧伝するとき、世帯
年収の低い人達へのバラマキを政策の主眼とするような野党勢力が急伸するのは
目に見えています。安倍政権が「全年代型社会保障」と言い始め、それは要する
に高齢者対策の福祉予算を段階的に削減しますよという政策合意をまるーく主張
しているに過ぎません。だからこそ、野党側は本来はその社会保障の切り下げで
本当に苦労するのは失業者と高齢者なのだと反論しなければならないところが、
どういう理由か森友問題、加計問題になってしまったことになります。

 政策論争が今回の選挙ではなかなか盛り上がらなかったのは、自民党が出した
苦肉の政策パッケージが、なぜかアベノミクスへの信認か否かという過去の話に
なってしまい、これから起きるであろう社会保障の削減プランの議論をすること
ができなかったことで、結果として大勝した自民党にフリーハンドを与えてしま
った、というのが実態なのではないかと考えます。まあ難しいところなんです
が、この辺の総括をしてくれるメディアが出てくることを祈るのみです。

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目次
【0. 序文】「歳を取ると政治家が馬鹿に見える」はおそらく事実
【1. インシデント1】東京選挙区を総括し、公示前と選挙結果について見比べて
みる(前編)
【2. インシデント2】ここ最近の自動運転車関連の話題をアップデート
【3. 迷子問答】迷路で迷っている者同士のQ&A
【4. インシデント3】中国経済と世迷言
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