現代人が物語を求めるのは、過去の時代への郷愁であるという説 佐々木俊尚の未来地図レポート vol.472

現代人が物語を求めるのは、過去の時代への郷愁であるという説 佐々木俊尚の未来地図レポート vol.472

2017年10月30日発行

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佐々木俊尚の未来地図レポート     2017.10.30 Vol.472
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【今週のコンテンツ】

特集
現代人が物語を求めるのは、過去の時代への郷愁であるという説

〜〜1970年代に社会に衝撃を与えた書籍「神々の沈黙」に再注目しよう(後編)

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■特集

現代人が物語を求めるのは、過去の時代への郷愁であるという説

〜〜1970年代に社会に衝撃を与えた書籍「神々の沈黙」に再注目しよう(後編)
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 1970年代に発表された名著か奇書か、いまだ評価の定まっていない『神々の沈黙 意識の誕生と文明の興亡』。プリンストン大学教授だった心理学者、ジュリアン・ジェインズが「古代には人類の脳には、<二分心(にぶんしん)>という二つの心があり、その会話によって思考が成立していた」と言う驚くべき論を展開している内容です。今回はその後編です。



 人類に言葉が生まれ、紀元前2000年ごろまでは<二分心>が成立していました。この背景には、都市化がさほど進んでおらず、人間の移動が大きくなかった古代は、共同体も小規模で固定的で簡素だったことが挙げられています。シンプルな社会とシンプルな生活だからこそ、<二分心>による神の命令だけで、人類は生活を営むことができたということです。



 ところが農耕の発明などで、素朴で小さな共同体がだんだんと大きくなってくると、徐々に神の声だけでは社会の複雑さに対応できなくなってくるということが起きてくるのです。



 紀元前2000年に近くなってくると、状況はこう変わっていったとジェインズは書いています。



 ”社会組織のテンポが速くなり、その複雑さも増したため、毎週、あるいは毎月、昔よりはるかに多岐にわたる、はるかに大量の決定を下すことが求められた。そのため、たいへんな数の神々が現れ、人々が遭遇するありとあらゆる状況に応じて祈願の対象となった。シュメールやバビロニアの年の壮大な神の家に祀られた主要神から、各家庭に祀られた個人の神に至るまで、当時の世の中は、<二分心>の幻聴の源で文字通りごった返していたことだろう。”


 そしてシュメールの「アトラハシス」という叙事詩の一節を引用しています。



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人々はおびただしい数に増え‥
神はその喧騒に気を滅入らせた
エンリルは人々のやかましい音を聞き
偉大な神々に訴えた
人間どもの立てる騒音が煩わしくなった

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 シュメール文明は紀元前3000年ごろに始まり、紀元前2000年ごろまで続きました。ジェインズが神の声が沈黙したと主張している時代と、シュメール滅亡は同時期です。



 またハンムラビ法典やウル・ナンム法典など世界最古の明文化された法律は、紀元前1700年〜2000年ごろに相次いで成立しており、「神々の沈黙」の時代に重なっています。ジェインズはこれについても、目に見える文書が神の声を代替していったのだと捉え、「幻の声による支配が弱まったということを示唆していると思われる」と書くのです。



 社会が複雑になっていく中で、神々の声の有用性がだんだんと薄れていき、法典が代わりを務めるようになります。そして最終的に神々の声は聞こえなくなるのですが、ジェインズはこの直接的な引き金を、地中海世界を襲った大災害に求めています。書籍では「テラ島」と表記されていますが、現代では一般的にサントリーニ島として知られているエーゲ海にあるギリシャ領の島。この島が紀元前1600年ごろに巨大なカルデラ噴火を引き起こしました。



 カルデラ噴火というのは恐ろしい破局的な噴火で、たとえば日本では阿蘇山が約9万年前にカルデラ噴火を起こしたことで有名です。この時の噴火で、なんと火砕流は九州全域を覆い尽くし、山口県の秋吉台にまで達したとか。当時九州に住んでいた縄文人は全員、一瞬のうちに滅亡したでしょうね。

 サントリーニ島が噴火する以前は、この島はもっと大きな面積を持っていて、高度な文明があったとも言われ、その後にプラトンが書いたアトランティス伝説のもとになったのではないかとも言われています。そしてサントリーニのカルデラ噴火は島を吹き飛ばしただけでなく、周囲の地中海文化に津波や大地震、火砕流、噴煙などのさまざまな大災害...

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