素晴らしい思想も、時に全体主義を生み出すという人間の本質的理解  佐々木俊尚の未来地図レポート vol.480

素晴らしい思想も、時に全体主義を生み出すという人間の本質的理解  佐々木俊尚の未来地図レポート vol.480

2017年12月25日発行

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佐々木俊尚の未来地図レポート     2017.12.25 Vol.480
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【今週のコンテンツ】

特集
素晴らしい思想も、時に全体主義を生み出すという人間の本質的理解
〜〜戦前の超国家主義と親鸞の驚くべきつながりを明かした本「親鸞と日本主義」

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■ 特集
素晴らしい思想も、時に全体主義を生み出すという人間の本質的理解
〜〜戦前の超国家主義と親鸞の驚くべきつながりを明かした本「親鸞と日本主義」

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 今年の8月に、『親鸞と日本主義』という非常に重要な本が出ました。

◆『親鸞と日本主義』(中島岳志)
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 中島さんは東工大教授で、『リベラル保守宣言』などの刺激的な著作がたくさんある論者です。この『親鸞と日本主義』はどのような本かというと、戦前日本の超国家主義の根底には、実は親鸞の思想があったというのを論じているのです。

 これは非常に衝撃的でしょう。日本人に親鸞のファンは多いと思います。「他力本願」などにみられるような「あらゆる人々は救われる」と説く鎌倉仏教の哲学。誰もが救済されるのだと説く包摂性。その哲学に、心の救いを得られている人は現代日本でも少なくないでしょう。特に今のような包摂性の乏しい21世紀の社会に生きるわれわれの心には、とても響くものを持っています。

 でも本書は、その哲学が実は危険な超国家主義の源流になったという、信じられない事実を明らかにしているのです。

 そもそも「超国家主義」は、いわゆる保守思想ではなかったと中島さんは書いています。普遍的なものに進んでいくのがリベラリズムだとすれば、エドマンド・バークが唱えた本来の保守主義は、人間の理性には限界があり、普遍を目指すのは人間性への過信だと指摘する考え方です。だからリベラルに対して「設計主義である」と批判するのです。人間の悪や不完全性を直視し、理性の限界を謙虚に受け入れることが重要で、そう簡単に理性によって設計できるわけではないと説くのです。

 では戦前の超国家主義者は何だったかというと、バーク的な保守思想ではなく、設計主義だったんですね。つまりテロや革命、陰謀などによって社会を改造し、理想社会を構築できると考えていたのです。それは左翼思想の一変種でもあり、だから「国家社会主義者」という呼び方もありました。ではこの設計主義的な超国家主義が、なぜ親鸞の思想と結びついたのでしょうか?

 そもそも超国家主義者が、何を目指して戦前の社会を設計しようと考えたのかを調べなければなりません。中島さんはその源流を、国学をつくりだした本居宣長に探っています。

 宣長の生家は熱心な浄土宗信者で、本人も法然・親鸞の影響を大きく受けたとされています。宣長が説いた、一切の私智を越える「やまとこころ」への随順は、実は親鸞の「他力本願」の流れを引いているのです。

 中島さんはこう書いています。『(宣長は)日本人の精神に染み付いた「#漢意」を除去し、日本古来の「やまとこころ」に回帰すべきことを主張した。そして事物に一切の介在なく直面することで「もののあはれ」を知ることができると説いた』

 漢意というのは、中国に特徴的な思考のあり方で、人間の賢しらな計らい全般を指すそうです。一方で「やまとこころ」は、一切の私智を越えた存在で、すべては「神の御所為(みしわざ)」とする考え方です。

 そしてこの宣長の「やまとこころ」をうまく利用したのが、明治政府でした。

 このあたりの明治における江戸以前の哲学の継承の話は非常におもしろいです。そもそも国体論には、水戸学と国学の二つの系譜がありました。水戸学は朱子学の一派として儒教道徳を重んじ、江戸時代の封建社会を支える思想になりました。それに対し、国学はは中国的な儒教道徳を否定し、外来思想が流入する以前の日本への回帰を主張したのです。

 封建社会=階級社会の中で生きてきた武士たちは、水戸学を主に支え、同時に日本という国家のナショナリズムにも冷淡でした。なぜなら武士たちは階級社会によって自らを下層階級から分離して考えていたから、出自による差別をなくし日本という国の中でネイション(国民)に統合するという考えには、容易には...

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