「物語」が存在しない時代とはどのようなものだったのか 佐々木俊尚の未来地図レポート vol.483

「物語」が存在しない時代とはどのようなものだったのか 佐々木俊尚の未来地図レポート vol.483

2018年01月22日発行

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佐々木俊尚の未来地図レポート     2018.1.22 Vol.483
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【今週のコンテンツ】

特集
「物語」が存在しない時代とはどのようなものだったのか
〜〜人間の記憶と意識と時間の関係を紐解く(中編)

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■特集

「物語」が存在しない時代とはどのようなものだったのか
〜〜人間の記憶と意識と時間の関係を紐解く(中編)
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 前回に引き続いて、人間の記憶についてのお話です。



 前回も書いたように、ひとりの人間が自分の時系列で物語として記憶する「エピソード記憶」というものが、人間が文明化していく上ではとても重要な役割を果たしました。エピソード記憶は、意味記憶にはない時間軸を持つことができますから、これによって、未来を予測し、将来の計画を立てられるようになったのです。



 さらには自分の持っている知識や能力を他人に効率よく伝えることができるようになり、共同生活を大きくし、複雑な狩猟ができるようになり、さらには農耕という大規模で時間のかかるいとなみを、みんなで力を合わせて続けていくことを可能にしたと言えるでしょう。



 エピソード記憶があるからこそ、私たちは容易に世界をひとまとまりの「物語」として理解できる。「物語」のない意味記憶だけでは、世界はバラバラの知識に分解されたままで、まとめられません。

 文体論・テクスト言語学の研究者、橋本陽介さんはこう書いています。



「物語というのは、人間の観念による構築物である。現実は物語的に把握され、物語は把握された現実のように表象される。換言すれば、それは現実認識を抽象化し、普遍化したものである。現実は私たちの感情に作用するが、物語も読み手の感情に作用する。それも、抽象化され、普遍化されている分、時には現実以上の作用をおよぼすのである」「物語はこれからもずっと、人間にとって身近な存在であり続けるだろう」(『物語論 基礎と応用』講談社選書メチエ)


 
 私たちは、物語で世界を理解しています。物語を作り上げるための手段として、データ科学者のヴィクター=マイヤー・ショーンベルガーが指摘しているような記憶の「忘却と抽象化」があります。これは何かといえば、膨大な過去のコラージュの中から事柄をフィルタリングしてその他のノイズは忘れ、抽象化して私たちが世界を理解できるような物語を抽出するということです。



 人類このような物語を生み出したのは、いったいどのような契機があったのでしょうか。


 有史以前の遠い狩猟採集時代には、そんなものは求められていなかったのかもしれません。いまそこに仲間がいて安心があり、食料が豊富で、日々の生が充実していれば、因果関係など必要ないのではないかとも思うのです。生き延びるための手段として、物語はあったのではないでしょうか。



 言語学者ダニエル・エヴェレットは1970年代、キリスト教の宣教師としてアマゾン奥地に住むピダハンという少数民族と暮らし、彼らの文化と言語を調べて『ピダハン』という本を書きました。


◆「ピダハン―言語本能を超える文化と世界観」

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 この本はオススメで、ピダハンは驚くべき人たちでびっくりします。例えば、彼らには、過去も未来もない。今だけがあるのです。エヴェレットは書いています。「人々は経験していない出来事については語らない──遠い過去のことも、未来のことも、あるいは空想の物語も」



 ピダハンの人たちは、先の計画を立てないし、食料を保存することもないといいます。未来のことは考えないのです。さらにピダハンは未来だけじゃなく、過去も持たない。それどころか、自分が直接見聞きしていないものさえ信じないのです。徹底的ですね。



 エヴェレットはピダハンの人たちと接触しているうちに、彼らの言葉や文化が、自分の直接的な体験ではないことを話してはならない、という制約を持っていることに気づきます。過去のできごとはもう終わってしまったことなので、自分がリアルタイムで体験していることからはすでに切り離されている。だから語らないというロジックなんですね。。


 なので、彼ら自身の神話も持ってい...
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